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2011年5月28日 (土)

■vol.37 面白い作品は始まりから面白い! 「ファーストシーン」(ツカミ)のつくり方

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◇物語は、どうやってはじめればいいの?
 
 
「ファーストシーン」――最も重要な「物語の冒頭部分」

「ファーストシーン」、別名〝ツカミ〟ともいわれるこの物語の冒頭部分、ド頭というのは、物語作品において非常に重要な箇所です。なぜかというと、ここは「お客さんが物語とはじめて接するところ」だからです。人間も第一印象が大事なように、物語でもこの冒頭部分が魅力的で面白いとお客さんは興味をそそられ「どれどれ……」とその作品を読み進めようとしてくれます。しかし、ここが面白くないとお客さんは作品を読んでくれない、あるいはそこで読むのを止めてしまうのです。

では、面白いツカミである「ファーストシーン」を作るにはどうすればいいのでしょうか。物語を始めようとするときに、どうやって、どんな場面から、どんなふうに始めればお客さんに面白いと思ってもらえるのでしょうか。ここではその方法を、たくさんの作品の具体例を見ながら学んでいきたいと思います。

◇ファーストシーンでは「この物語は何についての物語なのか」を、まず描こう!
 
 
 ファーストシーンで「主題の提示」をする!

「ファーストシーン」を作る上で最も重要なことの一つは、この作品が「何について描かれた作品なのか」ということをお客さんに提示したものにすることです。どういう事かというと、作品のおもな内容、何についての物語なのか、どんなことが起こりそうなのかを、この「ファーストシーンでお客さんに見せておく必要があるという事です。つまり作品の主題(おもな内容)とこの「ファーストシーン」が対応しているといえます。ですから、物語の主要な内容と全く関係ないこと、内容と対応していないことをファーストシーンに持ってきてはいけないということです。ここは説明だけではわかりにくいので、具体例を交えて見ていきたいと思います。

(※これ以降はぜひ、具体例として挙がっている作品を実際に「読んで、または観て」からお読みください。文字による説明では限界があるので……シクシク)

『るろうに剣心』のファーストシーン


 明治時代を生きる、元幕末最強の剣士「人斬り抜刀斎」である緋村剣心の活躍を描いた『るろうに剣心』の第1話の冒頭部分、ファーストシーンは「幕末の凄惨な斬り合いのシーンをバックに幕末を震撼させた最強の剣客『人斬り抜刀斎』についての説明」が描かれます。そして、場面変わって次のカットで女性剣士の神谷薫が剣心に向かって「人斬り抜刀斎!」と叫んでいるシーンから物語がはじまっていきます。

 なぜ、このシーンから物語が始まっているのかというと、第1話は「人斬り抜刀斎についての話」だからなのです。

 『るろうに剣心』第1話のストーリーは「辻斬り騒ぎを起こしている自ら『人斬り抜刀斎』と名乗る謎の剣客を倒そうと神谷薫が立ち向かうが、結果的にやられてしまい、裏に仕組まれた陰謀によって神谷道場や土地などが奪われそうになるところを『本物の人斬り抜刀斎』である剣心が助けて偽者を倒す」というものです。この第1話は「人斬り抜刀斎」について描かれたストーリーです。だから、この冒頭部分「ファーストシーン」は人斬り抜刀斎についてのシーンになるのです。
  

『鋼の錬金術師』のファーストシーン

兄弟錬金術師が活躍するファンタジー作品である『鋼の錬金術師』のファーストシーンは「錬金術の禁を破って母親を蘇生させようとして失敗し、その代償として体を失った弟の体を取り戻そうとして主人公の左足が〝もっていかれる〟というものです。非常にインパクトのあるシーンですが、ここでのポイントは「等価交換というこの作品の錬金術が持つ代償、それにより体の一部を失う」というシーンが描かれているということです。この作品は主に『錬金術』について描かれています。弟の体を取り戻すために錬金術を使って戦っていく主人公について描かれた作品です。だから、この錬金術に関するシーンが冒頭に来るのです。

この作品は『錬金術』という特殊な設定を持っています。まず、この事についてお客さんに対して提示してアピールしておく必要があるのです。ただ、もう一つの特殊な設定である、最初のエピソードの後半に登場するすごい力を持ったキーアイテム『賢者の石』についてのシーンをファーストシーンに持ってくる方法も考えられるのでは思うのですが、確かに主人公たちはこの賢者の石を探して旅をしているので、賢者の石についてのシーンを冒頭に持ってくるのも一つの方法なのかもしれないのですが、賢者の石以外で特別な設定がない(例えばただの冒険者の主人公が賢者の石を探している)場合は、それでいいのかもしれませんが、この作品は『賢者の石』以上に重要な設定である『錬金術、等価交換』というものがあります。こちらがこの作品の主要な題材であり核になっているものです。賢者の石の設定は『錬金術』に関する設定から派生したものですので、やはりファーストシーンは「錬金術・等価交換に関するシーン」を持ってくるのが、ベストなのです。

このようにファーストシーンで描くべきだと思うものがいくつか思い浮かんだときは、「何がいちばん作品本編と関連があるか、いちばん重要なことは何か」と考えて、最も重要なものをファーストシーンに持ってくるようにしましょう。

  

『はれときどきぶた』『あしたぶたの日ぶたじかん』のファーストシーン

有名な超人気児童文学作品 矢玉四郎著『はれときどきぶた』のストーリーは「母親に自分の日記を盗み見られたことに対抗して『明日の日記』を書いたら、その日記に書いたことがどんなことでも本当に起こってしまい、大騒動になる」というものです。この物語の一番の題材は『日記』です。すべてはこの〝日記を書く〟ことからストーリーが始まっています。ですから、ファーストシーンは「〝日記〟に関するシーン」から始まっています。

同様に『はれときどきぶた』の続編である『あしたぶたの日ぶたじかん』も、ストーリーは「神社の掲示板に貼った自作の壁新聞に書いたことが本当に起こってしまう」というものですが、やはりこの作品のファーストシーンは「〝新聞〟についてのこと」から始まっています。
  
   
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のファーストシーン

『ダイの大冒険』は「勇者ダイが冒険の旅に出て魔王を倒す」というストーリーです。魔王とその手下のモンスター軍団との戦いについて描かれています。それがこの作品の主題、主な内容です。ですから、載第一話のファーストシーンは「封印されていた魔王が復活する」というシーンになっています。
 
 
『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』のファーストシーン

 この作品はインターネットの仮想空間に生れた凶悪なデジモン(デジタル生命体?)との戦いを描いています。ですから、ファーストシーンは、ネット空間でその凶悪なデジモンがタマゴから生まれるシーンとなっています。
 
 
『のだめカンタービレ』(TV)のファーストシーン

 この作品は音楽大学が舞台で、オーケストラの指揮者を目指す青年『千秋』と、とんでもないピアノ演奏の才能を持っているが片付けられない変態女子大生『のだめ』の出会いと交流と成長を描いた作品です。この作品の特徴は主人公級の主要キャラクターが二人登場しているという点です。このような場合、どちらに焦点を当てて描いていくかによってファーストシーンも変わってきます。

 『のだめ~』では主要な視点を持っているのは千秋です。千秋が主体で描かれていき、その途中で『のだめ』と出会います。TVドラマ版第1話のストーリーの主な内容は「のだめと出会うことで、のだめのピアノ演奏に影響を受けて千秋の抱えていた問題や閉塞間が解決して、目指す指揮者へ一歩近づく」という「千秋の抱える問題とその解決、千秋の成長と変化」について描かれたものです。ですからファーストシーンは『のだめ』ではなく、『千秋』についてのシーン、千秋の過去と現在、幼少の頃の憧れの大指揮者の先生との出会いと、飛行機恐怖症により海外留学が出来ず憧れの先生にも会えず音大の中で腐っているという千秋が抱える問題が描かれています。
  
  
『涼宮ハルヒの憂鬱』のファーストシーン

 『ハルヒ』ではどうでしょうか。ハルヒ小説版の第一巻を見ていきましょう。ハルヒ一巻の主題、何について描かれているかというと「非日常的な事柄、宇宙人、未来人、超能力者、ハルヒの持つ世界を変革させてしまう能力とそれにまつわる様々な人々と出来事、いわゆる不思議で超常的な事」が描かれています。

ですから、小説版のファーストシーンでは『キョン』の独白で「非日常的な事、超常的な事について『キョン』が思っていること、そして『ハルヒ』と出会ったことが描かれています。
  
    
『彼氏彼女の事情』のファーストシーン

この作品は「仮面優等生、家ではぐーたら、人前で見栄を張るのが生きがいの主人公『宮沢雪乃』が、自分よりも勉強ができる同じクラスの優等生『有馬聡一郎』に勝負を挑んでいく、そしてその過程で雪乃の二面性の秘密(家でのぐーたら姿)がバレてしまう」というストーリーです。ですからファーストシーンは雪乃の優等生ぶりを描写したシーンともっと優等生の有馬を敵視しているというシーンになっています。
  
  
◇「ツカミの事件」でお客さんのハートをキャッチ!
 
 
 ファーストシーンでお客さんの心を掴む「ツカミ」をつくろう!

 これまでのいろいろな作品のファーストシーンを見ていると、ファーストシーンではなんらかのインパクトのある「事件や出来事」が起きていることがわかります。これはファーストシーンの役目である「主題の提示」に加えて、もう一つの役目「お客さんを惹きつけ、作品に引き込む」という目的のためです。

つまりインパクトのある出来事を起こしてお客さんの興味を引き、そのまま作品本編に引きずり込んでしまおうということです。失礼な言い方ですが、「ファーストシーンで起こるツカミの事件」はお客さんを捕まえるエサとなります。

「ファーストシーン」ではショッキングなもの、インパクトのあるもの、どうなるんだろうと思わせるような事件や出来事を引き起こして、お客さんのハートをワシ掴みにしてしまいましょう!
 
 
◇ファーストシーンはその後の展開へとつながっていく、何かを予感させるものにしよう!
 
 
 ツカミで起こる事件が、物語の「悪い状況」や「本事件」が起こるきっかけとなる

さて、ツカミとしてとにかくインパクトのある出来事を起こすわけですが、その出来事・事件は、ストーリーのなかで起こる「本事件」を誘引する「きっかけ」となるものにしていきましょう。

 たとえば、魔物を倒す話であれば封印されていた「魔物が復活する」とか、宝物を取り返す話であれば「宝物が奪われる」とか、女性との恋愛を描く話であれば「向かいのホームにいる女性に一目ボレしてしまう」とか、「告白したらフられてしまう」とか……、とにかく物語本編で起こる事を予感させる出来事、物語で起こる事へ繋がる、対応している出来事を選ぶようにしましょう。最初の「ツカミの出来事・事件」が、物語の悪い状況を発生させる「本事件」へとつながっていくのです。

 大事なのはインパクトと予感・予兆・期待・不安です。ストーリーに対する「引き」の要素が含まれていることが重要です。「引き」というのはお客さんに「これは一体なんだろう」「この先どうなるんだろう」と思わせるような要素のことです。ファーストシーンだけでは終わらない、この後もっと大きな出来事がありそうだな、なにか大騒動が起こりそうだな、とお客さんが感じるようなものを描いていきましょう。

それがあれば「ツカミはオッケー!」なのです。
 

 説明はせずに、とにかくいろいろなネタをばら撒く

ファーストシーンでは説明不足でぜんぜん問題ありません。むしろ、ここであまり説明してはなりません。

一つの方法として、ろくな説明をせずにいろいろなネタをばら撒き、思わせぶりなセリフやおいしいところだけをチラチラと見せて観客の期待感をあおるという方法があります。具体例を見てみましょう。
 
 
『天空の城ラピュタ』のファーストシーン

 宮崎駿監督の大傑作冒険アニメ映画『天空の城ラピュタ』では「空中海賊の旅客飛行船襲撃シーン」からはじまります。ここでのポイントはここは単にインパクトを狙っただけのシーンではないという点です。海賊は乗客の金品などなど見向きもせずにあるものを探しています。それは幻の「天空の城ラピュタ」の力を秘めた持つものを中に浮揚させる飛行石です。しかしファーストシーンでは飛行石がいかなるものなのかといった詳しい説明は一切しません。ただ飛行船から落下した少女が飛行石の力によって宙に浮かぶ描写があるだけです。(飛行石の詳細は後にだんだんと明らかにされていきます)

ファーストシーンでは空中海賊の強襲、何かを必死で探す海賊、海賊と機関の人間との銃撃戦、謎の少女、なぜ少女は機関の人間と一緒にいるのか、機関に守られる少女は一体何者なのか、機関の黒服たちは何者なのか、何の目的で少女と飛行船で移動していたのか。

海賊に追い詰められる少女、そして悲鳴とともに飛行船の窓から雲間へ落下してしまう少女! なぜ海賊は少女を襲うのか、海賊がいった『飛行石』とは一体何なのか、果たして少女はどうなってしまうのか! ……ほぉ~ら、続きが気になりますよね~。あれは何なの? これはどうなの? といろいろきになりますよね。こうお客さんに思わせるようにネタをバラ撒くのです。

 また、冒頭の謎の要素(海賊や機関、少女、謎の石、なぜ追われているかなどの理由)は、物語が進むにつれてしだいに明らかになっていきます。あえて説明しない事で物語冒頭で謎を提示しておき、ストーリーとともに明かされる謎を少しずつ解明していく形になっているため、観客は物語の展開はもちろん、謎の解明も気になって作品を観続けてしまいます。非常に優れた「ツカミ」です。

また、この作品の主題は「天空の城ラピュタの探索」です。ラピュタを探し出して、悪者の手からラピュタを守る話です。ですから、ファーストシーンでは「ラピュタとその手がかりとなる飛行石の争奪シーン」がくるのです。

天空の城ラピュタのように「物語の主題に関係するアクションシーンから入る」というのは一つの有効な手段です。
  

『劇場版機動戦艦ナデシコ』のファーストシーン

 これも非常に優れた作品です。

 この作品のはじまりは「TV版での主人公〝アキト〟とヒロイン〝ユリカ〟の死」という非常にショッキングなシーンからはじまります。墓参りするユリカの父のシーンから、舞台は一転、宇宙コロニー「シラヒメ」への何者かの襲撃、戦闘。その裏で暗躍する刺客たちによる研究員の暗殺、意味深なセリフ、死んだはずのユリカがカプセルに乗せられて時空の狭間に、正体不明の敵、黒いロボットは何者なのか、暗殺者たちは何者なのか。

素早いカット割りと段取り抜きでたたみ掛けるように展開し、説明らしい説明は一切語られません。でも、観客は釘付け。しかも、観客を完全には置いていかない構成の巧みさ。もう、手放しで拍手です!

 『劇場版ナデシコ』は天河アキトについて、そしてボソンジャンプという未知のテクノロジーをめぐる「火星の後継者」との戦いについて描かれています。ですからファーストシーンは「謎のロボットの襲撃シーン」なのです。それがメインスペースコロニーの襲撃事件へとつながっていくのです。
   
※ツカミに「物語のクライマックス部分」を先行で持って来てしまうという「手」もあります。要は〝なんでもあり〟なのです。
  
 
◇ファーストシーンは「静→動」の変化をつけて盛り上げていこう!
 
 
 ファーストシーンの盛り上がりを生むシーンの「対比」

ファーストシーンで、お客さんの興味を引くためにインパクトのある出来事やアクションシーンなど盛り込んでいくわけなのですが、それらのシーンをさらに盛り上げていく手段があります。それは「対比構造」を用いるということです。つまり反対の性質のシーン盛り込んでいくのです。ファーストシーンに派手なアクションシーンを持ってこようと思ったら、そのアクションシーンの直前に「静かなシーン」を入れてみるのです。そうすると、静かな感じで物語がはじまってお客さんは「ああ、静かな作品なんだな……」と思った途端、派手でにぎやかなアクションシーンが始まり、そのギャップで余計にお客さんはインパクトを感じるのです。この静かなシーンから騒々しいにぎやかなシーンへの変化、「静」→「動」への変化がファーストシーをさらに盛り上げてくれるのです。
  
  
 ファーストシーンとその後のシーンの前後関係

ファーストシーンの後は「状況説明」へと続きます。で、状況説明というのは大抵「静かなシーン」になりますから、その前のファーストシーンはにぎやかにシーンになるのが望ましいです。にぎやかといっても必ずしもアクションシーンでなければいけないわけではありません。ファーストシーンにおける静と動の変化を、また具体例から見ていきましょう。
 
 
『紅の豚』のファーストシーン

 作品のド頭、短い字幕による作品の説明が終わった後、映し出されるのはアドリア海の静かな小島で優雅にくつろぐ主人公の姿です。時間の流れもゆっくりしていて、砂浜のビーチチェアーで主人公は昼寝をしています。そこへ一本の電話が入ります。『客船が海賊に襲われた!』

その次のシーンでは海賊が客船を襲撃する騒々しいシーンが展開されます。これなども静→動への変化を付けた見事なファーストシーンだといえます。
   
  
『劇場版パトレイバー(1作目)』のファーストシーン

 この作品は「犯罪者帆場英一の仕掛けた犯罪を阻止する」というストーリーです。ファーストシーンでは暴走した自衛隊のロボットを追撃するアクションシーンが描かれています。「動」のシーンです。そのシーンの前に帆場英一が海に飛び降り自殺するという静かで幻想的で不気味な「静」のシーンが配置されています。

 前述の『劇場版機動戦艦ナデシコ』もファーストシーンの最初は宇宙空間、そして主人公とヒロインの墓前に花を手向けているヒロインの父親のシーンという「静」のシーンのあとにスペースコロニー襲撃という「動」のシーンに続いていくという流れになっています。
 
 
「過去」→「現在」などの「変化のギャップ」でファーストシーンをはじめてみる

 反対のシーンをぶつけてその対比で見せていくということを考える場合、頭に入れて起きたいのは「ギャップ」です。ギャップとは〝落差〟です。2つのシーンで差があればあるほど面白みが生まれます。そこでファーストシーンでこのギャップを利用するといろいろな手が浮かんできます。その一つが「過去から現在のギャップで見せる」という方法です。

 まず「過去のこと」を描きます。そして、その直後に「現在の状態」を描きます。その際、現在の状態は過去の状態と「逆、正反対」の状態を持ってきます。たとえば過去に「大金持ち」だったら現在は「一文無しに落ちぶれている」、あるいは「過去には毎年全国大会に出場している強豪部活動」が「現在はメンバーも揃わず廃部寸前」といった具合です。このようにファーストシーンで過去と今のギャップを描く事でそのあまりの落差からインパクトを出すことができます。

 「過去から現在」という変化以外にも、「夢から目覚めた現実」や「妄想から現実」などいろいろな落差を持った変化を描いていくことができます。
  
  
 過去に起こった事件・出来事をファーストシーンで描いてみる

 物語では何らかの事件・問題が起こり、それを解決していくわけなのですが、その物語で起こる事件の原因・要因となった「過去の出来事や事件」をファーストシーンで描いてお客さんの期待感をあおる、というやり方もあります。たとえば、犯罪が起きてその事件をか解決するという物語であれば、その犯罪を犯すきっかけとなったかこの何らかの出来事をファーストシーンで描くのです。そうすることで、ファーストシーンとしても事件や出来事を描く事で十分お客さんの興味を引くものになりますし、本編で起こる事件の伏線ともなって物語に重厚感を与えることができます。『劇場版パトレイバー2』でもこの方法がとられています。

この作品のファーストシーンでは、物語本編で犯人「柘植」が引き起こす巨大な犯罪の原因、きっかけとなった出来事・事件が描かれています。戦地でのロボットでの戦闘シーン、次々と敵に襲われる柘植の部下たち、ファーストシーンとしてはとても見ごたえのあるものになっています。そしてその時のことが今の柘植が起こした犯罪の原因になっているということが後々にだんだんと判明してくるのです。

『鋼の錬金術師』もファーストシーンで過去のショッキングな出来事を描き、それから時が経って成長した主人公を登場させるという方法をとっています。その際、過去の主人公と現在の主人公の変化・変わりよう(主人公は失った片手片足が義手義足、弟は失った体の変わりに甲冑が体になっている)がギャップとなって、お客さんの興味を引いています。

ファーストシーンで過去を描く場合は、描いているシーンが過去のものであることを読者にわからせなくてはいけません。いちばん簡単な方法は、字幕などで「3年前」とか「○○○○年 どこどこ」と表示してしまうやり方です。これならすぐに「ああ、過去のことなのだな」とわかります。そして、そのシーンのあとから現在の物語の始まりを描いてやればお客さんは「あの過去の事件は今にどう繋がっているんだろう」と興味を持ってくれます。

◇ファーストシーンは「もう事件(物語)が始まっているところ」から描き出そう!
   
 
 事件の途中、もうすでに事件が起きているところから物語をはじめよう!

物語は「物語のはじめ」から物語を始めるのではなく、「物語の途中、もう物語が始まっている状態」から物語をはじめるということが重要です。うまいファーストシーンは「もう事件が起きている状態」で物語がはじまるのです。ファーストシーンはとにかく「スピードが命」です。お客さんをいち早く作品に引き込まなければいけません。ですからファーストシーンではチンタラと背景描写や状況説明はせずに、もういきなり事件を起こし、その途中から始まるようにしていきましょう。

説明は後ですればいいのです。

面白い映画を観ていると、たいていファーストシーンは事件ではじまっています。『ラピュタ』もそうですし『紅の豚』もそうです。『スターウォーズ』シリーズもそうです。エピソード1では有名なOPテロップの後、交渉のために訪れた宇宙船で二人のジェダイの騎士は敵のロボット兵にいきなり襲われます。そしてそのまま、戦闘、撤退、脱出、近くの惑星に不時着……と、どんどん物語は進んでいきます。文字通り物語の途中、物語がはじまっているところから物語がはじまっています。同作品エピソード2でもOPテロップの後に味方の王女の乗っている宇宙船が爆破されるという事件が起こります。エピソード3にいたっては、テロップ明けいきなり宇宙戦闘機による戦闘シーンのドンパチの最中から物語が始まります。危機また危機、手に汗にぎる展開で観る者をドンドン引き込んでいきます。

ファーストシーンは着火剤のようなものです。ゆっくり火を起こしていてはダメなのです。物語がはじまったらいきなり炎がバッと燃え上がる、いや燃え上がってるところから物語をはじめる、というふうに最高潮に達しているところや、すでに流れに乗っているところから物語を始めるとお客さんは否が応でも自然に物語に引き込まれてしまうのです。
   
   
◇ファーストシーンでは、お客さんの意表をつく「サプライズ」を心がけよう!
  

 ファーストシーンで「意外な事実」を描いていい意味でお客さんを裏切ろう

 アクションシーンなどを配してファーストシーンを盛り上げてお客さんの興味を引く方法は非常に有効で、また物語作りにおいては最もポピュラーな方法ですが、アクションシーンがない物語も多くあるのではないかと思います。そんなときにファーストシーンでインパクトを与えるにはどうすればいいかというと、お客さんの予想を裏切るような「サプライズ」を仕掛けることでお客さんの興味を引くようなインパクトを与えることができます。具体的にはお客さんの予想を裏切る「意外な事実」「意外な展開」「出来事の驚くような結果」から物語を始めることです。たとえば「一晩で大金持ちになった」とか「一晩で全財産が無くなった」とか「告白したら見事に振られた」とか「家出をした」とか「出家した」とか「家の庭にUFOが墜落した」とか「そのUFOの中から美少女宇宙人が出てきた」とか「不良に襲われた」とか「警察に捕まった」とか「会社が倒産した」とか「学校に転校生が来た、その転校生が○○だった(○○の部分には驚くような要素を入れる)」とか「目が覚めたら牢獄の中だった」とか「女神が現れて『何でも願いを叶えてくれる』といわれた」とか「異世界に飛ばされてしまった」とか「不思議な世界に迷い込んでしまう」とか……、いろんなパターンが考えられます。そこから物語を始めるのです。

アクションシーンでなくとも、こんな感じで「サプライズ」を入れていけばインパクトのあるファーストシーンを演出していくことができます。ファーストシーンでこういったサプライズがあればお客さんは「この後どうなるんだろう」と、興味を持って作品を読み進めてくれます。

また、このファーストシーンで描く「サプライズ」の内容は、その後の物語本編へと繋がるものであり、物語の主題「何についての物語か」という部分に直結する出来事・内容にすることが最も大事なポイントになってきます。いくらサプライズが欲しいからといっても、物語と全く関係ない事柄を持ってきたのでは、ファーストシーンはもとより、物語全体としても上手くいかず、お客さんにも混乱を与えてしまうファーストシーンになってしまいます。

前述のアニメ映画『紅の豚』のファーストシーンは「主人公の顔は見えないように」描かれていき、ここぞというところで『実は主人公の顔は〝豚〟でした!』というサプライズを仕掛けてています。この「豚」という設定はそれ以降続く物語に直結していますし、しかもこのサプライズの直後にアクションシーンへとなだれ込むという非常に上手いファーストシーンが描かれています。
 
  
◇ファーストシーンではキャラクターの生活環境の「変化や転換」を描くと、その後の物語を予感させやすい!
  
  
■ これから何かはじまる! という展開を予感させる「主人公の生活の変化や転換点」から物語をはじめてみよう!

 前述したことの繰り返しになりますが、ファーストシーンでは「この後なにかが起こりそうだなぁ」とお客さんに予感させるような要素を描くことが大事です、と説明しました。そのための一つの方法として「登場キャラクターの生活環境の変化や転換をファーストシーンに持ってくる」という方法があります。主人公の生活環境の変化・転換から物語を始めるのです。具体的には、たとえば「旅立つ」「冒険に出る」「引越しする」「転校する」「彼女(または彼氏)ができる」「別れ話を切り出される」「結婚する」「子供が生れる」「マイホームを買う」「転勤する」「転校する」「進学する」「部活に入部する」「プロポーズする」「弟子入りする」「修行をはじめる」「進学する」「クラス換えする」「出会う」「別れる」「就職する」「離職する」「定年退職する」「おばあちゃんちにはじめてお泊まりする」……など、他にもいろいろありますが、こういった主人公の生活環境の新しい変化や転換点をファーストシーンに持ってくると、その後のストーリーも続けやすいですし、なにより「あ、これはなにか面白いことが起きそうだゾ!」とお客さんに思わせやすいという利点があります。
 
 
 「変化」にインパクトを持たせてみよう

「変化・転換」からファーストシーンをはじめる場合は、その変化は「インパクトのある変化」にするのがポイントになります。「転勤する」でも、ただ転勤するのではなくインパクトのある驚くような場所に転勤する、というようにしていきます。例えば、

「県内有数の進学校で教えていた高校教師が突如、不良たちが大半を締めるヤバイ高校へ転勤することになる」

といった具合です。また「結婚」だったら、

「しがないサラリーマンの主人公が、どこかの国の王族のお姫様と結婚する」

 ってな感じです。「部活に入部する」なら、

「新しい部活に入部したら、次の日に自分以外の全員が部活を辞めていた」

 「進学」だったら、

「進学して新しいクラスになったら、とんでもない変人と出会った」(ハルヒ)

 「引っ越し」だったら、

「引っ越した先の家には『お化け』がすんでいた」(トトロ)

 ……などなど、必ずしも変に極端に、突飛にする必要もないですが、こんな感じで単なる生活の変化に「一味加えてみる」とインパクトを持たせることができます。
  
 
■ ファーストシーンの「良い変化」と「悪い変化」

 変化や転換を見ていて感じた方もいるかと思いますが、変化にはその人物にとっての「良い変化」と「悪い変化」という2つの変化があります。これはどちらの変化を選んでも構いませんが、ポイントは物語本編ではファーストシーンで描いた変化とは反対のことが起きるという点です。たとえば「彼女ができる」という主人公にとって「良い変化」をファーストシーンに持ってきたとしたら物語本編では「彼女は実は○○だった(○○には何か問題のある要素を入れる)」とか「彼女に二股を掛けられていた」とか「彼女のことでなにか事件に巻き込まれる」といった「悪い展開」へとつながっていきます。なぜかというと、そうじゃないと面白くないからです。お客さんは主人公の笑顔ではなく、主人公が困るところ、困難に直面するところを見たいのです。そして、どう行動するかが見たいのです。

逆に「ずっと付き合っていた彼女に振られた」といった「悪い変化」を持ってきた場合は、その後には「ちょっと素敵な女性と何かの機会で知り合う」とか「その女性と結果的に相思相愛になる」といった悪い変化を補完するような「良い展開」が起きてきます。

物語は「プラスからはじまったらマイナスへ、マイナスからはじまったらプラスへ転じていく」、そんな風に考えて物語をはじめていくとストーリーを作りやすいのではないかなあと思います。

 参考:第4章「構成」を組み立てよう!

■vol.34 3幕構成(4区分)でプロットをつくろう!

■vol.35 物語は「エピソード」で出来ている!

■vol.36 キャラクターの「気持ち(内面)」を描かずして、何が物語か!

■vol.37 面白い物語は始まりから面白い! 「ファーストシーン」(ツカミのつくり方)

■vol.38 「ネタ振り」が物語の出だしを盛り上げ、作品の方向性を決定する!

■vol.39 状況設定は「エピソード」を使って行おう!

■vol.40 いちばん大切な事、「とにかくキャラクターを立てよう!」

■vol.41 「事件」が“物語の本当の始まり”になる!

■vol.42 物語の本問題の発生と解決の主要な流れ、「メインプロット」

■vol.43 中盤部の面白さは、「サブプロット」にあり!

■vol.44 「ミッドポイント」――物語の真ん中では何が起こっているか!

■vol.45 「3つの流れ」を描こう!

■vol.46 物語の「山場」を盛り上げよう!

■vol.47 12の要素を当てはめてラストをつくろう!

■特別付録「物語あらすじ制作シート」

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