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2011年7月20日 (水)

■vol.56 『敵には敵の「都合」がある!』

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◇「敵側の事情・背景」を描いて「敵」のキャラクターを立てていこう!

   

「敵」を描こう!

 物語で主人公と敵対する存在「敵」が登場するものがあります。この「敵」が「問題」を引き起こします。この「敵」が「最大の障害」になり場合もあります。プロットとしては、この最大の障害となる「敵」を倒したり「敵」の目的をくじいたりする事で「問題」が解決します。

   

「敵」が持つ「目的」「動機」を設定して「どう悪いのか」を描こう

 「敵」とは主人公と何らかの対立をする存在です。「敵対する存在」には様々なパターンがあります。まず「悪」である場合です。これは物語上の「倒すべき存在」となります。主人公と目的が同じで、その目的を達成しようと対立する「敵対」もあります。また主人公と目的がまったく逆の場合も敵主人公双方が目的を達成しようとして結果「対立」が生まれます。

主人公は主人公の目的を達成しようとします。または敵の目的をくじくことが主人公の目的である場合もあります。敵は、その敵が持つ「目的」を達成しようとして、その過程でジャマになる主人公を排除しようとします。

 さて、この対立する「敵」を描く上でポイントとなるのは「敵」が持つ「目的」と「動機」をしっかりと設定するということです。「悪、悪いやつだから敵、だから倒す!」、これでは「敵」がリアリティを失ってしまいます。結果、主人公の「敵を倒す」という行動もよくわからないものになってしまいます。悪いという理由、どう悪いのか、何のために倒さなければいけないのかを描くことが大切です。

「倒すべき敵」を描く場合、敵が「何のために、何をしようとしているのか」を設定する必要があります。一口に悪といってもその存在が「悪い」のではありません。「悪い」というだけではその存在がどう悪いのかお客さんに伝わりません。悪いのは存在ではなく、その「目的」「動機」、そしてその「手段」のいずれかが「悪い」から「悪」なのです。

たとえば、お金を儲けたいという悪人がいたとします。しかし、お金を儲けたいだけでは悪でも何でもありません。お金を儲けることは悪いことではなく、悪じゃなくてもお金を儲けたいと思うからです。しかし、お金を儲けるための「手段」が悪いとどうなるでしょうか。例えば「麻薬を売って大もうけするとか」「人身売買をして大もうけするとか」「詐欺を働いてお金を騙し取るとか」「強盗をしてお金を盗む」とか……。ここではじめて「ああ、それは悪いヤツだ」と言うことができるのです。

世界征服を企む存在がいたとします。しかし、これだけでは「悪」とは必ずしもいいきれません。なぜなら、世界を良くしようとして征服をしようとしているのかもしれませんし、圧政に苦しむ民衆を救おうとして革命を企てているのかもしれないからです。「何のために、どんな目的で世界征服をしようとしているのか」という理由、しかもそれがどう悪いのかという「悪い理由」をまず設定して「悪」を具体的に描いていきましょう。

  

◇「敵」には「敵」の都合がある!

   

「敵」の都合・事情を描いて、単純ではない深い敵を表現していこう

味方には味方の都合があるように、敵には敵の都合があります。悪いやつもはじめから悪いやつだったのではないのです。たとえば、何かが事件があって、それで憎しみが生れて、そこから復讐心が生れ、そして悪の力を求め、闇に堕ちていくといった段階を踏んで悪人は悪人になっていくのです。

意思や感情を持つキャラクターという形で描かれる「敵」には、その「敵」なりの事情や都合、理由、動機があるのです。悲しい過去を背負っているかもしれません。もしかしたら、同情できる面があるかもしれません。世界征服をたくらむようなヤツから部活の嫌な先輩まで、敵対するものには、敵対するものなりの背景があるのです。

敵には敵の利害があります。計算もあるでしょう。欲望、願望、目的、気持ちがあります。それをしっかりと描いてやることで敵のキャラクター性が表れ、キャラが立っていきます。

  

ドラゴンクエスト ダイの大冒険の場合

ファンタジーマンガの傑作『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』に登場する魔王のモンスター軍団の軍団長の一人に「ヒュンケル」というキャラクターがいます。このキャラクターは人間でありながら、人間の敵である魔王軍に加担し、あまつさえ魔王軍の軍団長の一人になっています。そして、強大な力で主人公ダイたちの行く手を阻みます。ここで大事なのは「なぜ人間なのに魔王の手先になっているのか」という点です。秘密はこのキャラクターの過去にあります。ヒュンケルは魔王軍の侵略により幼児期に孤児になってしまいます。そこを当時の魔王軍の軍団長のモンスターに拾われ、育てられます。何もわからないヒュンケルはそのモンスターを親と慕って大きくなります。あるとき、魔王を倒すべく正義の勇者が戦いを挑んできます。当然、魔王を守るべくヒュンケルの親である軍団長のモンスターは勇者と戦い、勇者に破れ、結果命を落とします。育ての親の死を知ったヒュンケルは、親を殺した憎っくき勇者を倒すことを心に誓うのです。そして、勇者に敵対する魔王軍に加わり、人間の敵になったのです。(ただ、この話には裏があります。続きもあります。真相を知りたい方はぜひコミックスをお読みください)

同じく魔王軍軍団長の一人に主人公ダイの父親「バラン」がいます。このキャラクターは「世界の秩序を保つ存在である伝説のドラゴンの騎士」なのですが、魔王に力を貸しています。なぜかというと、このキャラクターの妻(人間)は、同じ人間によって命を奪われてしまったからなのです。妻の死に悲観し、人間に対して敵対するようになってしまったため、魔王の手先として主人公と戦うことになります。

『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』は味方のキャラクターもとても魅力的ですが、敵キャラクターも個性豊かで魅力的な悪役キャラクターがたくさん登場します。これはひとえに敵キャラクターの事情、都合、背景、そして気持ちなどを丹念に描いていっているからなのです。敵と対決する物語で、主人公たちのキャラクターを立てていくには「いい敵」が必要です。薄っぺらで単純ではない「魅力的な悪役」が不可欠です。

倒すべき敵がよく分からないようなヤツだったら、どう悪いのかいまいち掴めないようなヤツだったら、それと対決する主人公も、それを倒すための物語もつまらない中途半端なものになってしまうでしょう。しっかりした、ある意味魅力的な敵を描けば描くほど、対決する主人公も魅力的になりキャラクターが立っていくのです。

ですから、悪には悪なりの理由・都合を描いてやり、より深い、それらしい厚みのある「悪」を描いていきましょう。

   

◇「敵」を描こう!

   

説得力のある人物像を持った血の通った敵を描くには

敵対する人物を描く際に、敵側にも様々な背景・事情があることがわかりました。そういったことを踏まえた上で敵を描く際、その人物の持つ考え方、価値観、動機、目的を説得力のある形で描写していく必要があります。嫌なヤツを描く場合、ただ単純に嫌なヤツというだけではやはり薄っぺらい作品になってしまいます。どう嫌なヤツなのか、どんな風なところが嫌なのかをしかっりと描いていかなければいけません。(敵対するキャラクターを描くということは、主人公を描く上でとても重要なことなのです)

   

敵を描くには実在のモデルから学ぼう

敵を描く上で一番有効な方法は「実際にモデルとなる人物から学ぶ」ということです。みなさんの周りの嫌なヤツ、悪人、とんでもないヤツがいると思います。その人物をモチーフにして敵対するキャラ、悪役キャラ、敵役の人物造形に活かすのです。

……といっても、気に入らない人物を作品に登場させて酷い目にあわせるということではありません。それはやらない方がいいです。それをやると、怒りに任せて嫌なヤツを痛めつけることに比重を置きすぎて作品のバランスが崩れて、結果クオリティの低下を招いてしまいます。下手すると創作活動ではなく単なる報復行動になりかねません。そうではなくて、嫌だなあと思うような人物、悪人がいたら、その人物の人となり、言動・行動、思考パターンなどを「冷静に観察・分析する」のです。その人物が「嫌なヤツたる理由」を分析するのです。どんな考え方を持っているのか、どんな価値観を持っているのか、どんな状況で、どんな行動・言動を取ったのかを冷静に分析していきす。そこには必ず嫌なやつたる所以、悪たる所以、その要素が含まれているはずです。その「エッセンス」だけを抽出しましょう。そしてそのエッセンスを自分の作品の敵対する人物作りに役立てるのです。怒りを克服し、憎しみを脇へおいて、あくまで物語のクオリティを上げるという観点のみから分析していきましょう。罪を憎んで人を憎まずです。

例えば高圧的な態度とか、人を人として扱わないとか、色々な悪の性格要素があります。そういった敵の人物像を構成するエッセンスを調べていきましょう。また、自分がひどい態度で接されたという場合は、その時の状況、その時に自分が感じたことを冷静に分析し、作品に活かしていきましょう。相手はどんな意図でそういう態度をとったのか、どんな状況・状態だったのかを分析して、「敵」の描写に活用していくのです。転んでもただでは起きない、みなさんのあらゆる体験・経験が物語作りに活かされていくのです。自分で体験した事ほど役に立つことはありません。マンガの神様と称される手塚治虫は戦後、まだ若い時に同じぐらいの歳の米兵から何の理由もなく暴力をふるわれるという不条理極まりない体験をしたそうです。それ以来、その時の体験が氏の作品制作のときに大いに活かされてきたそうです。以前にも描きましたが、人間の行動原理は ①苦痛を避けたい ②喜びを味わいたい の二つです。嫌な態度をとってくる人物も、よくよく分析してみるとこの2つのどちらかに当てはまっているのです。その言動、行動は2つの行動原理のどちらから来ているものかをまず考え、血の通った敵、悪役を作り上げていきましょう。

   

バラエティ豊かな「敵」を描いていこう

敵の人物像にも色々なタイプがあります。悪役がみんな同じようなキャラで、一つのタイプの敵ばかりを描いていたら物語はつまらなくなるでしょう。冷静沈着な悪役もいれば、頭にすぐ血が上るといった傲慢で単純な悪役もいるでしょう。太宰治の『走れメロス』に登場する王のなどは「誰も人が信じられなくなり人間不信に陥る」という設定があり、その結果「家臣や血族を、民衆を殺してしまう」という悪に陥っています。

その人物がどんな気質を持っているのか、どんな性格か、どんな弱さがあるのか、それらを分析して作品に活かし、説得力のある豊かな悪役、敵対する人物をつくってみてください。

参考:第5章 設定をつくろう!

■vol.48 「設定」は、「キャラが魅力的に見えるシーン」のためにある!

■vol.49 物語のもう一つの流れ、「謎の解明」

■vol.50 「同人誌」をつくろう!

■vol.51 主人公には「いちばんの才能」を持たせよう!

■vol.52 「特殊能力」の面白さは「制限要素の面白さ」である!

■vol.53 キャラクターの「目的」「目標」「動機」を設定しよう!

■vol.54 キャラクターが一番引き立つ「世界観」を設定しよう!

■vol.55 「組織」「職業」「部活」「家族」――人は何かに所属している

■vol.56 敵には敵の「都合」がある!

■vol.57 キャラクターや物語を引き立てる「道具・アイテム」をつくろう!

■vol.58 「制限」があったほうが物語を作りやすいって、ホント?

■vol.59 物語に「仕掛け」を施して、お客さんをアッといわせよう!

■vol.60 物語を盛り上げる方法と、キャラクターが勝手に動いてくれる設定

■vol.61 長編・短編のつくりかた どんな長さの作品でもお客さんを満足させる方法

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コメント

> マンガの神様と称される手塚治虫は戦後、子供のころにアメリカ人の子供から何の理由もなく暴力をふるわれボコボコにされるという不条理極まりない体験をしたそうです。

手塚に暴力を振るったのはアメリカ人の子供ではなく、米兵です。ちなみに手塚は終戦時に17歳なので、このエピソードはおそらく20歳弱の頃でしょう。子供のころというのも少しふさわしくないかも。
この事件で受けたコンプレックスは、ずっとのちにアメリカへ旅行するまで残っていたようです。

投稿: Kow | 2012年9月 6日 (木) 00時06分

おおうっ!
確かにおっしゃるとおりです。
happy01記事、修正修正しました。
ご指摘ありがとうございます!
happy01

投稿: 「あなたの物語」製作委員会 | 2012年9月 6日 (木) 01時16分

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